サイケデリックロックができるまで 第3回

サイケデリックロックを代表するスタイルの一つに、
「異様にカラフルでファンタジー的なサウンド」があります。

そのため、こうした楽曲を何の予備知識もなしに聴いたときには、
「ずいぶんときれいでファンタジーな曲だな」と思うのですが、
実はこれは「LSDによって生じるカラフルな幻覚作用」の表現なのです。

さて、この「サイケデリックロックができるまで」の第2回記事までは、
こうしたカラフルでファンタジー色の強いサイケデリックロックへの流れは
まだ全く登場していませんでした。

こうした「ファンタジー系サイケ」が生まれた土壌には、
「ロックによるバロック音楽や室内音楽への接近」があります。

要するにバロック音楽的なカラフルなサウンドを導入することが、
ファンタジー的なLSDによる幻覚への表現に繋がったわけですね。

そしてこの動きもまた「ロックによる新しい音楽要素の導入」の側面を持っています。

インド音楽への接近が新しいロックの表現として求められたように、
クラシックへの接近もまた新しいロックの表現として取り入れられたわけです。

「後のファンタジー系サイケの土台となるスタイルとしての
ロックへのバロック音楽への導入」において非常に大きな役割を果たしたのが、
ここで紹介するThe Rolling Stonesの"Lady Jane"(1966年4月15日)です。

The Rolling Stones - Lady Jane (1966) [Baroque Pop]


ロックへのバロック音楽の要素の導入はThe Beatlesが
"In My Life"(アルバム"Rubber Soul"収録)において行っていましたが、
このときはまだ断片的にその要素を取り込むものだったのですね。

それに対して、この"Lady Jane"はもはや完全にバロック音楽であり、
こうしたスタイルの特徴であるハープシコードの導入も極めて大胆でした。

またこの"Lady Jane"ではダルシマーという楽器が大幅に取り入れられてもいます。
「新しい楽器のロックへの導入」という点でも踏み込んでいた曲だったのですね。

1966年にはこうしたバロックスタイルの音楽が他のバンドからも生まれていますが、
時期的にもその音楽的にもこのThe Rolling Stonesの"Lady Jane"は画期的でした。

ただしこの時点では「サイケ的なトリップ感の表現のためのバロック音楽の導入」
という色は薄く、あくまで「ファンタジー系サイケが確立される過程で生まれた曲」
というふうにとらえたほうが適切であろうとは思います。

「ストーンズ=不良バンド」みたいなイメージでとらえている方は
こうしたストーンズの音楽性を見ると意外に感じてしまうかもしれませんね。

そして「バロック音楽的でカラフルなサイケデリックロック」とは異なる形で、
「キラキラとして浮遊感のあるサイケデリア」を確立したアルバムが生まれました。

それが今なお語り継がれるThe Beach Boysの"Pet Sounds"(1966年5月16日)です。
そこからその浮遊感が非常に伝わりやすい"You Still Believe in Me"を紹介しましょう。

The Beach Boys - You Still Believe in Me (1966)
[Psychedelic Pop / Psychedelic Rock / Chamber Pop]


このアルバムもクラシカルな室内音楽の要素を取り入れていることから、
「室内音楽的なロック」ということでChamber Popなどと呼ばれることがありますが、
この作品に関してはそうした枠組みだけではとらえきれないところがあります。

この"Pet Sounds"は従来のロックで用いられてきたスタイルを
全部解体してしまおうとしながら、その中で新しい音楽を確立し、
それを極めて高いレベルで実現したところに凄味があるのです。

まずドラムなどは完全に不規則ですし、この曲の最後では自転車のベルの音を使ったり、
普通のロックではやってこなかったことをサラリといくつも導入しています。

そしてこのアルバムでよく言われるのがベースの使われ方です。

ベースは基本的にはそのコードのルート音を中心に弾くのですが、
このアルバムではどの曲でもずっとベースがルート音をわざと外していて、
それが特有のふわふわと浮かぶようなトリップ感を生み出しています。

それゆえある程度音楽に詳しい人ほど、
「なんだかこのアルバムはいやに異質だぞ」と感じる内容になっています。

ところでビーチ・ボーイズというと、
「はぁ、ビーチ・ボーイズ? サーフィン音楽のバンドだろ?」
と軽く見られてしまうことがありますが、
バンドの中心人物でもあったブライアン・ウィルソンは完全なインドア派で、
ずっと芸術性だけを突き詰めた作品を作りたいと考えていたのですね。

そして歌詞などからもサーフィン的な要素を完全に取り払い、
100%自身の音楽的な創造性だけで作り上げたのがこのアルバムなのです。

この"Pet Sounds"はポール・マッカートニーにも強烈な影響を与え、
さらにこのアルバムの影響を受けたソフトサイケバンドも大量に生まれました。

このアルバムがそのまま「サイケデリックの一つのスタイル」として確立されたのですね。
それをほぼThe Beach Boysのブライアン・ウィルソンが一人でやってのけたのもすごいことです。

この作品が作られるまでは、他のバンドは似たような音を全く作ってなかったですからね。

またこの"Pet Sounds"がThe Beatlesの"Revolver"よりも先にリリースされているのも注目点です。

The Beatlesが"Revolver"でサイケ方面に大きく踏み出すより前に、
The Beach Boysは彼らなりの独自のサイケデリアを完成させたわけですね。

そしてこの"Pet Sounds"を受け継ぎ、同年10月10日には、
The Beach Boys流サイケの決定的な曲である"Good Vibrations"がリリースされ、
全米1位と全英1位を同時に獲得します。

The Beach Boys - Good Vibrations (1966) [Psychedelic Rock]


ポップでありながらサイケデリックでいて、極めて高い創造性を誇っている、
まさにこの時代が生み出したロックの一つの金字塔であると言っていいでしょう。

さて、まだファンタジー系サイケの完全な確立には至っていませんが、
次回記事ではこれまでとは全く違った方向から生まれたサイケを見ていきます。

同時多発的に様々なスタイルが生まれたのがサイケデリックロックの特徴なのです。

ということで、今回はバロック系サイケデリックの土台が作られたことと、
The Beach Boys流の透明感のあるサイケデリアの確立を見ていきました。

◎ここまでのサイケデリックロック形成の年表


1965.6.4 The Yardbirds - Heart Full of Soul (Single)
1965.7.30 The Kinks - See My Friends (Single)
1965.12.3 The Beatles - Norwegian Wood (This Bird Has Flown) (Album "Rubber Soul")
1966.2.25 The Yardbirds - Shape of Things (Single)
1966.3.14 The Byrds - Eight Miles High (Single)
1966.4.15 The Rolling Stones - Lady Jane (Album "Aftermath UK")
1966.5.16 The Beach Boys - Album "Pet Sounds"

1966.5.30 The Beatles - Rain (Single "Paperback Writer")
1966.8.5 The Beatles - Love You To, Tomorrow Never Knows (Album "Revolver")
1966.10.10 The Beach Boys - Good Vibrations (Single)

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サイケデリックロックができるまで 第2回
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テーマ : 洋楽ロック | ジャンル : 音楽

コメント

 
かーとさま
サイケデリック、前回までのインド音楽の導入の次の動きはバロック音楽へのこころみですね。Rストーンズのこの曲は有名ですね。実はギターでクラシックをかじる中でバロック音楽(といってもバッハがメイン)にも興味をもちギターの前身楽器といわれるリュートの曲をギターでいくつかひいたりしてました。バロック音楽では組曲が多く、前奏曲、フーガやさらにさまざまな舞曲から構成されるんですが静かな舞曲を連想させますね。ギターはおそらくですがクラシックギターすなわちガットギター(金属弦でない)と思われるんですがやわらかい音色でバロックの雰囲気を出してますね。それにしてもハープシコードも取り入れるなど画期的な曲ですね。
それと不完全終止という終わり方でバロックではこんな終わり方はないんですが、すごい印象深くなってますね。

続いてのビーチボーイズの曲、びっくりしました。こんな曲をやってたんですか!ChamberPopというのもまさにそうですね。なるほどベースがルート音をはずしてこんなフワフワを出してるんですね。面白いですね。バンドの中心メンバーはこんな曲を実は求めていたんですね。こんなサウンドはPet Soundsが初めてでリボルバーの前ってすごいですよね。一人で作り上げたっていうのがまた驚きですね。

最後のビーチボーイズのGood Vibrations、これはさらに洗練された印象ですね。ビートルズのリボルバーなんかはそれなりに時代を感じさせられますが、シンセ、ストリングスを使っているのかこれをただ聞いたら70年代くらいの曲?と思ってしまいます。1966年にこのような曲を出していたとはほんと驚きでしかないです。少なくともサイケのこれまでの紹介では一番の衝撃です。

かーとさんは、ちょっと前にビーチボーイズが一番好みだとおっしゃってましたよね。少し不思議に思ってましたが、今回の紹介で納得です。次回楽しみにしておりますが、今日の紹介でサイケはビーチボーイズがもっとも革新的というイメージがすでに固まりつつあります。

長くなり失礼しました。
とら次郎のとうちゃんさん、こんばんは!

サイケデリックロックは最初はインド音楽からの接近から始まったのですが、
それとは全く異なるアプローチもこのようにあったのですよね!

それがバロック音楽や室内音楽などのクラシックの要素を導入しつつ、
音楽的な先進性とファンタジー的なサイケデリアを模索したものでした!

The Rolling Stonesの"Lady Jane"は以前から知っておられたのですね!

バロック音楽はヴィヴァルディやバッハを断片的に知ってるのみで、
全然詳しくないだけにいろいろと教えてくださって非常にありがたいです!

もっとバロックを中心としたクラシック方面にも造詣を広げたいですので!(●・ω・)

1966年あたりからいろんなバンドからバロック風の楽曲が出てきますが、
これはその先鞭ともなったという意味で非常に歴史的意義がありますね!

The Beach Boysって「サーフィンのバンド」というイメージが先行してますが、
この"Pet Sounds"などで作られた曲って本当にすごいでしょう?

The Beach BoysはThe Beatlesのように数人の作曲者がしのぎを削る感じではなく、
ほぼリーダーのブライアン・ウィルソン一人が作曲を全部担当していたのですよね!

で、ブライアンはこうした創作性を前面にまで押し出した
作品を作りたいとずっと胸に秘めていたのですよね!

それが結実したのが、この"Pet Sounds"というアルバムでした!

>ビートルズのリボルバーなんかはそれなりに時代を感じさせられますが

これは本当に私も同感で、
The Beach Boysのこの時期の曲って、
時代を超える力が非常に強いのですよね!

時代を超えるだけの普遍性を備えたアート性を持っているのですよね!

自分ももともとThe Beach Boysに対しては変な先入観を持っていましたが、
この"Pet Sounds"をはじめとした何枚かを聴いて完全にぶっ飛ばされて、
そこからThe Beach Boysを掘り下げるうちに虜になってしまったのです!

「これほどアーティスティックなバンドは他にない!」と思わせてくれました!(=゚ω゚)

それでは、今回も深く面白いコメントをどうもありがとうございました!(゚x/)

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