ロックをジャンルの視点から語る意義

私は洋楽ロックの様々なバンドについて語るときに、
必ずと言っていいほどその曲がどのジャンルに属するか、
という視点を盛り込むようにしています。

それを見て、
「なんでこの人はいちいちジャンルにこだわるのだろう」
と感じる人も少なからずいるかもしれません。

ミュージシャンの間ではジャンルで括られるのを嫌う人もいますし、
「音楽をジャンルという枠にはめるのは解釈を狭くする」
と考える人も少なくないと思います。

そこで、ここでは「ロックをあえてジャンルの視点から語る意義」
について語っていきたいと思います。

◎理解を助けるためのジャンルという手がかり


たとえばあるゲームに興味を持ったとき、
他の人に「これってどんなゲーム?」とたずねたとしましょう。

そうすると、聞かれた人の多くは「これはRPGだよ」とか、
「これはシューティングゲームだよ」といったように、
どういうタイプのゲームなのかをまず答えるでしょう。

そうすることで、聞いた側も「あぁ、おおよそその方向性のゲームなのだな」
と理解でき、そのゲームをプレイするかどうかの大きな手掛かりにできます。

さらに「このゲームはドラクエに近い」とか、
「このゲームはゼルダの伝説に近い」みたいに固有名詞付きで言われれば、
そのイメージはより明確なものになるでしょう。

これは様々なロックに触れるうえでも同様だと言えます。

「これはスラッシュメタルですよ」「これはパンクロックですよ」、
というふうに音のタイプを説明すると、イメージがしやすくなり、
実際に音を聴いたときにも「なるほどこういう音か」と解釈が容易になります。

さらに「このバンドはLed ZeppelinとBlack Sabbathの影響を受けてる」
のように固有名詞で聞くと、そのイメージはより明確になるでしょう。

ただし、ゲームと違ってロックではいくぶん弱点を含むのも事実です。

まず第一にジャンルがあまりに細分化されすぎているうえに、
各々のジャンルについてよく知らない人のほうが多数派なため、
「これはプログレですよ」とか言っても、
これからロックを聴き始めようとしている人には通じません。

かといって、「プログレとは何か」を説明しようとすると、
時代背景や成立の流れまで含めたりすると長くなりすぎるなど、
ジャンルの情報を提供しても理解してもらえることに難しさがあります。

これはバンド名の固有名詞を挙げて説明する場合はさらに問題になります。
すでにそのバンドを聴いている人にしか理解ができないですからね。

そして何より厄介なのが、ゲームの分類と比べて、
音楽のジャンルの分類はその境界線がかなりの曖昧さを含んでいます。

「AのバンドもBのバンドもどっちも同じジャンルなの?」とか、
「Aのバンドはこの2つのどちらのジャンルになるの?」とか、
ゲームのジャンルほどスパッと切れない難しさがあります。

そうすると、やはりロックのジャンル分けは一長一短に見えます。

それでもあえてジャンルで語ることの意義はいったい何なのでしょう。

◎都市が集まって文化を中心に国を作るイメージでとらえる


ロックの歴史を見ていくと、音楽は決して単発でポツポツ生まれてはいないのです。

ある時代に「こういう方向性の音楽を作るべきではないだろうか」
と考えるミュージシャンが同時多発的に表れ、
それぞれの人達が似た方向を向いて音楽を作り、
それが一つの音楽文化を形成していくという経緯があることが、
ロックの歴史を見ていくと非常にはっきりと伝わってきます。

この事実を踏まえると、
「この都市とあの都市などが集まって、この国はできたんですよ」
と語ることであったり、
「この都市はこの国が成立する経緯の中で生まれたんですよ」
と見ることが意義を持ってきます。

「ジャンル」とだけ聞くと、まるで本来は関係ない別々の都市を
無理やり「ジャンル」という枠でくくっているように聞こえます。

しかし実はそうではなく、様々なバンドが似通った目標を持って
新たなミュージックシーンを形成することでジャンルが成立しているのです。

なので、実は私が「ジャンル」として語っているのは、
本当は「(時代なども踏まえた)ミュージックシーン」のことなのです。

このようにバンドは決して単体で存在しているのではなく、
「様々な都市が似通った目標や文化背景を持って成立し国を形成した」
というふうにとらえると、1つの都市(=バンド)に触れたときに
得られるイメージが横の厚みを持ってくることになるのですね。

時代背景も見えてくるし、同じミュージックシーンを形成した
他のバンドも聴くことで、国全体のイメージも頭の中にできていきます。

バンドだけをぶつ切りで聴くと、世界中の各都市だけの知識が
バラバラに断片的に頭に入ってくることだけで終わってしまいますが、
ジャンルというかミュージックシーンを意識しながら聴いていくと、
各都市の知識が有機的に結びつき、さらには国もイメージも見えてきて、
まるで「音楽による地図」のようなものがどんどん広がっていくのです。

どんな知識も断片的なつまみ食いでは見えてこないものがあります。

その横の繋がりや、まとまりなどを意識することによって、
知識はネットワークとなり、頭の中に世界地図のように完成します。

ジャンル、すなわちミュージックシーンを考える意義はそこにあります。

◎ジャンルという言葉へのイメージを変えよう


前節で「ジャンルというより、むしろミュージックシーンとして理解しよう」
ということを説明しました。

しかしそうすると、「音のタイプで分類するジャンル」と違って、
ミュージックシーンは時代なども大きく影響してくるはずで、
ではジャンルの分類も時代によって変えるべきなのか、
という問いが出てくることになります。

その答えですが、私は迷わず「Yes」と答えます。

私としては「ジャンルはむしろミュージックシーンを指す言葉であり、
たとえ音が近くあっても、時代やミュージックシーンが異なるのであれば、
また別のジャンル名をつけたほうがいい」というスタンスでいます。

たとえば「サイケデリックロック」と言えば、
自分は60年代中盤から70年代前半までの
サイケデリックシーンのバンドのみを指すようにしています。

その時代以降のサイケ風の音楽は「ネオサイケ」のように呼んだり、
「サイケデリック・リバイバル」のように呼ぶほうが適切だと見ています。

全てのジャンルについてそうすることを求めるのは難しいですが、
本来ならこのようにジャンルの名前を聴けば、
「あぁ、あの時代にあのような音で文化を形成したシーンのことだな」
と思い浮かぶ、そのほうが実際にはわかりやすいと考えています。

◎ミュージックシーンをどう理解するか


「ジャンルをミュージックシーンとしてとらえ、
各バンドの音楽をミュージックシーンを意識しつつ聴くことで、
頭の中の音楽の世界の地図が有機的に完成していく」
と述べてきましたが、そのためには大きなハードルがあります。

「それぞれのジャンル、ミュージックシーンがどの時代に
どのように形成されたのか」がわからないと、理解のしようがないことです。

しかし、それについてはこのブログの「ロックの歴史」シリーズで詳しく触れてきました。

あのシリーズはまさに「それぞれのミュージックシーンが
どの時代にどのような背景を持って形成され、それがどのような音楽だったか」
をあらゆる角度から解説したものです。

もちろん洋楽ロックに詳しくない人から見れば、
あまりに固有名詞が多くて全ての理解は非常に困難でしょう。

でもあの文章をいつでも読めるような状態にしておけば、
新たに聴いたバンドのジャンルを見て、
それをあの文章と照らし合わせることでバンドを「断片的な都市」ではなく、
「その都市の背景とどんな国を形成することに寄与したか」が見えてきて、
これによって一気にバンドの理解というものが厚みを持ってくるのですね。

あの「ロックの歴史」の文章を何となく頭の中に入れつつ、
音楽を聴くことで知識を有機的に結び付けやすくなるでしょう。

そのための入口という意味を込めた文章でもあったのですね。

なので、音楽に入るときはミュージックシーンも意識しながら聴くと、
「その音楽が目指したもの」なども見えてきて、より深く楽しめますよ。

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テーマ : 洋楽ロック | ジャンル : 音楽

コメント

 
ジャンルという考えはないよりはあった方が私もいいと思います。ただおっしゃる通り細分化されていくといろいろ混乱を招きかねないこともありますね。

友人がインダストリアルロックにはまっていて何曲か聞かせられ、これはほとんどヘビメタと同じではないか?このジャンルの由来を聞くとヘビメタとは背景がちょっと違うとか聞かされ???と思いました。

歴史、変遷を理解する上では必須になると思うのでかーとさんおっしゃるようにサイケデリック、ネオサイケデリック・・・というネーミングが分かりやすいですね。

それにしても私の知らないことだらけで造詣の深さすごいですね。



こんばんは。かーとさんのおっしゃる都市とロックの結びつきについて思い当たることがございます。

司馬遼太郎は「街道をゆく 愛蘭土紀行」の中で、リバプールをビートルズの聖地としていますが、4人のメンバーのうち3人がアイルランド系であり、地域性、民族性(或いはケルト系のルーツまで遡る想い)を強く感じるとしています。

イギリスと言っても一枚岩ではなく、古代ローマ(アングロサクソン)系や先住のケルト系が混在するわけですが、民族を意識した中で生まれたロックも多いのではないでしょうか?また、20世紀も後半以降になってくると、ダイバーシティとシャッフルが進み、人種の壁を越えた様々なグループが出てきます。

洋楽ロックを理解するには、そのへんの事情にも精通する必要がある気がします。まだまだ音楽の世界地図をイメージするには至っていませんが、そのさわりの部分をご教示頂いた気がします。

◎まとめ◎
お陰様で本日も知見にあふれた記事に触れさせて頂きました。おはからいに感謝申し上げます。ありがとうございます。
とら次郎のとうちゃんさん、こんばんは!

ジャンルの細分化の良し悪しはなかなか難しいところがあって、
「この2つのジャンルってほぼかぶってるんじゃないか」
みたいなケースがけっこうあったり、それとは逆に
「ちょっと何でもかんでもこのジャンルにひっくるめすぎでは」
なんてのもあったりして、適切な分類はなかなか大変ですね!

ジャンルに関しては垣根の曖昧さというのはけっこう重要なので、
たとえば「ポストグランジかつオルタナティブメタル」のように、
複数のジャンルでまたがせて考えるのも有益だったりしますね!(●・ω・)

>友人がインダストリアルロックにはまっていて何曲か聞かせられ、
>これはほとんどヘビメタと同じではないか?このジャンルの由来を聞くと
>ヘビメタとは背景がちょっと違うとか聞かされ???と思いました。

おそらくこれはインダストリアルメタルのことではないかと思いますね!

Nine Inch Nails, Ministry, Marilyn Manson, Fear Factoryなどの
バンドがおおむねこのジャンルを代表しているとして語られます!

インダストリアルメタルはインダストリアルとヘヴィメタルの複合ジャンルですが、
ルーツであるインダストリアルは完全にパンク方面から出てきたのですよね!

パンクの流れからポストパンクという無機的でコンピュータを多用しつつ
攻撃的なサウンドが生まれ、そこからインダストリアルができたのですね!

で、そこからさらに「ここにメタリックな硬質さを重ね合わせよう」と
考えるバンドが出てきて、スラッシュメタル(80年代のMetallicaとか)など
との融合が進み、これがインダストリアルメタルになっていくわけです!

なので、ルーツとしては「パンク由来の音楽がメタルを取り込んだ」感じで、
ご友人さんのメタルそのものとはルーツが違うというのは事実ではありますね!

ただ一方でスラッシュメタルなどを取り込んでいるのも事実なので、
初期のMetallicaやMegadethなどが好きな人などは受け入れやすいでしょうね!

ちなみにメタルバンドがインダストリアルメタル方面に接近したケースもありました!

ではでは、コメントありがとうございました!(゚x/)
横町さん、こんばんは。

今回の記事では、あくまでバンドを都市、ジャンルを国と比喩したのですが、
横町さんが今回のコメントで触れられたように、
実際に都市や国によって特定の音楽が生まれてきた歴史はありますよね。

イギリスとアメリカで音楽的な傾向の違いが表面化する場面も多いですし、
ドイツで70年代前半に生まれた実験的なサウンドを志向するクラウトロック、
70年代にアメリカ南部の空気を再現したおおらかなサザンロック、
70年代後半から80年代にかけてのイギリスとアメリカのメタルの違い、
アメリカのシアトルで局所的に発展した80年代後半から90年代前半のグランジ、
イギリスの60年代サウンドを90年代にリバイバルしたブリットポップなど、
やはり何かしら実際の意味での地域性というのもあるのでしょうね。

ロックには様々な場面において横や縦の繋がりが存在するので、
そのあたりを有機的にとらえ、ネットワークを描いていくことで
より音楽を総合的に楽しめるというところはあると思いますね。

それでは、コメントありがとうございました。

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