ロックの歴史 第5回(1990年代前半)

前回の「ロックの歴史 第4回」で1980年代のアンダーグラウンドシーンについて
解説しましたが、これが基盤となって90年代の音楽が大きく動き始めます!

オルタナティブロックが徐々にメインストリームへと進出していく中、
1991年についにある曲がシーンを動かし、音楽界は一気に変わります!

今回はロックの歴史に残る巨大なムーブメントの流れを見ていきましょう!(`・ω・´)

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◎グランジムーブメントとオルタナティブロックの隆盛(90年代前半)


1991年が始まった頃はまだメインストリームシーンにおいてはポップメタルが隆盛を極めていたが、そこに風穴を開けるような動きが出始めてくる。オルタナティブロックの先駆者でもあるR.E.M.がその年にリリースしたアルバム"Out of Time"(アウト・オブ・タイム)は発売されてすぐに大きなヒットを記録し、最終的にアメリカ国内だけで400万枚のセールスを獲得した。

また、スラッシュメタルの元祖であったMetallicaは、それまでのスピード重視のメタルから方向性を変え、ヘヴィネスを強調したどっしりとしたサウンドを軸に据えたアルバムである"Metallica"を発表し、これが巨大なセールスを収めることに成功する。こうした流れを通じて、「オルタナティブでヘヴィなサウンドを求めるニーズ」が顕在化されつつあった。

そこに登場したのがNirvanaの"Smells Like Teen Spirit"(スメルズ・ライク・ティーン・スピリット)であった。この曲はMTVなどを通じてミュージックビデオが公開されるや否や人気が爆発し、アルバム"Nevermind"(ネヴァーマインド)も急速にチャートを駆け上がっていくことになった。これによって、シーンの主流はあっという間にオルタナティブロックが席巻していくこととなる。

Nirvanaのヒットに次いで、同じくシアトルシーンの出身であるPearl Jam[パール・ジャム]も大きなヒットを獲得し、さらにAlice in Chains[アリス・イン・チェインズ]やSoundgardenも成功を収めていった。シアトルのミュージックシーンは80年代後期まではBlack Flagからの影響を受けた「テンポが遅い地下臭の漂うハードコアパンクにメタルをミックスしたもの」が主流であったが、そこから音楽性が広がっていき、「音楽的なルーツはそれぞれ異なるものの、ダークでヘヴィなサウンドとシリアスなテーマ性」という共通性を帯びた緩やかなつながりを持つようになり、これらのサウンドがグランジ(Grunge)と総称されるようになっていく。

シアトル以外からも同様の音楽性を持ったバンド達がメインストリームに侵攻していき、グランジムーブメントはさらに進行していった。サンディエゴのStone Temple Pilots[ストーン・テンプル・パイロッツ]、シカゴのThe Smashing Pumpkins[スマッシング・パンプキンズ]、ロサンゼルスのBlind Melon[ブラインド・メロン]なども大きな成功を収めていく。

そしてこのグランジムーブメントを皮切りに、様々なオルタナティブロックがシーンに浮上していくこととなる。ファンクメタルの先駆者だったRed Hot Chili Peppersも1991年のアルバム"Blood Sugar Sex Magik"(ブラッド・シュガー・セックス・マジック)で巨大なセールスを収め、ファンクメタルもグランジと並ぶオルタナティブロックの主流としてシーンに定着していく。その流れで他のファンクメタルバンドもシーンに浮上すると同時に、変態ベーシストであるレス・クレイプール率いるPrimus[プライマス]やラップとLed Zeppelin的なハードロックを融合させ、社会的なテーマを扱ったRage Against the Machine[レイジ・アゲンスト・ザ・マシーン]なども大きなセールスを収めていった。

さらにコンピュータサウンドを多用しつつダークでヘヴィなサウンドを構築するインダストリアル・メタル(Industrial Metal)もシーンに大きく浮上していく。Ministry[ミニストリー]によって完成させられたこうしたサウンドは、その音楽性を受け継いだNine Inch Nails[ナイン・インチ・ネイルズ]のヒットによって、完全にシーンへと定着することに成功する。その後もNine Inch Nailsのトレント・レズナーの助力を得たMarilyn Manson[マリリン・マンソン]やWhite Zombie[ホワイトゾンビ]などのバンドが人気を獲得した。

またそれら以外に90年代に浮上したオルタナティブロックのミュージシャンとしてはBeck[ベック]やJeff Buckley[ジェフ・バックリー]などを挙げることができるだろう。

オルタナティブロックは全体的に攻撃的で実験的なサウンドを持つバンドが支配的ではあったが、その中にはThe Replacementsなどの流れを汲んだ、オーガニックで土の香りがするような温かいサウンドを持ったバンドも大きく含まれており、これらのバンドもシーンへと浮上していくこととなった。

Soul Asylum[ソウル・アサイラム]やThe Goo Goo Dolls[グー・グー・ドールズ]はその好例で、いずれももともとはハードコアパンクバンドだったが、徐々にそうした温かみのあるパンク由来のサウンドへ移行し、新たなアメリカンロックの形を提示することになった。パンクからの影響がそれほど強くないバンドとしてはCounting Crows[カウンティング・クロウズ]やDave Matthews Band[デイヴ・マシューズ・バンド]、Gin Blossoms[ジン・ブロッサムズ]などが大きなセールスを獲得していくことになる。また、80年代後期からThe Black Crowes[ブラック・クロウズ]やBlues Traveler[ブルース・トラベラー]、Spin Doctors[スピン・ドクターズ]などのルーツ志向の強いジャム系のバンドがポツポツと生まれており、これらのバンドを総称してアメリカン・トラッド・ロック(American Trad Rock)や大人向けのオルタナティブロックという意味でアダルト・オルタナティブ(Adult Alternative)と呼ぶようになっていった。また、90年代中盤に大きな人気を獲得した女性シンガーのSheryl Crow[シェリル・クロウ]もこのラインを代表する存在として語ることができるだろう。

またグランジムーブメントの拡大に伴い、グランジそのものとは言い難いものの、グランジからの影響を少なからず感じさせるオルタナティブロックバンドも数多く生まれていた。これらのバンドはポストグランジ(Post-Grunge)と呼ばれるようになる。その代表格であるLive[ライヴ]は2ndアルバムである"Throwing Copper"(スローイング・コッパー)で800万枚という巨大なセールスを収めることに成功する。また女性ヴォーカリストのAlanis Morissette[アラニス・モリセット]は1995年の"Jagged Little Pill"(ジャグド・リトル・ピル)で1000万枚を遥かに超えるセールスを記録する。他にもCollective Soul[コレクティヴ・ソウル]などもこのラインから浮上していく。また、Nirvanaの解散後に結成されたFoo Fighters[フー・ファイターズ]もこうした流れの中にあると見ることができる。

◎オルタナティブロック時代のメタルやパンクの変化(80年代後半から90年代前半)


オルタナティブロックの中にはメタルの要素を強く取り入れたバンドも数多く存在していた。グランジの枠組みで浮上したAlice in ChainsやSoundgardenもそうであったし、またプログレッシブかつオルタナティブな感性とメタリックなサウンドを融合させたTool[トゥール]、ノイジーでありながら整合性を持ったメタリックなサウンドを鳴らしたHelmet[ヘルメット]、90年代中期以降の実験的なメタルを主導したDeftones[デフトーンズ]、ファンクメタル的な要素に重低音を強く効かせたゴリゴリとしたヘヴィサウンドを提示したKorn[コーン]などのバンドは、オルタナティブメタル(Alternative Metal)と呼ばれるようになっていく。

また、グランジやオルタナティブロックの浮上によって、80年代に主流を極めたポップメタルはメインストリームのシーンからの退場を余儀なくされることとなった。それに伴い、メタルの分野においても主流となるサウンドに大きな変化が起きてくる。Pantera[パンテラ]が90年のアルバム"Cowboys from Hell"(カウボーイズ・フロム・ヘル)でスラッシュメタルにさらなる重さと咆哮的なヴォーカルを重ね合わせたアルバムを発表したのを皮切りに、さらにMetallicaが1991年に示したヘヴィなサウンドの影響も加わり、80年代のポップメタルとは全く異なった、ヘヴィでザクザクとしたメタルサウンドがメタルシーンの中核を担っていくことになる。こうしたサウンドはグルーヴメタル(Groove Metal)と呼ばれるようになっていく。

シーンの先駆者であるPanteraだけにとどまらず、Machine Head[マシーン・ヘッド]やブラジルのSepultura[セパルトゥラ]などのバンドもシーンに浮上し、さらに80年代のメタルバンドもこうしたサウンドへと移行していくケースが数多く見られることとなった。シーンそのものはそこまで大きくならなかったものの、90年代中期以降のヘヴィロックに多大な影響を残したことは特筆されるべき点であろう。

また80年代中期から地下シーンにおいて様々な実験的なサウンドが試みられてきたことに伴い、メタルとパンクの双方において音楽性の極端化を目指す動きも顕在化してくる。その先鞭ともなったのがNapalm Death[ナパーム・デス]で、ハードコアパンクのスピードを極端なレベルにまで速め、もはや音楽と評していいのかわからないレベルのエクストリームなサウンドを完成させる。これはグラインドコア(Grindcore)と呼ばれることになる。こうした動きはメタルにも派生し、グラインドコアと同様の要素をメタルに持ち込んだデスメタル(Death Metal)が生まれることとなった。

これらはテンポをひたすら速めることによって攻撃性を高めることを狙う方向性であったが、同時にそれとは全く逆の方向の極端化を目指す動きも登場してくる。そうした流れの中から生まれたのがドゥームメタル(Doom Metal)、ストーナーロック(Stoner Rock)、スラッジメタル(Sludge Metal)であった。

ドゥームメタルは端的に言えば、Black Sabbath直系のドロドロとしたスローなヘヴィメタルである。ドゥームメタルは80年代中期からTrouble[トラブル]、Candlemass[キャンドルマス]、Saint Vitus[セイント・ヴィータス]といったバンドによってシーンが形成されていったが、そこに最も大きなインパクトを与えたのはCathedral[カテドラル]であろう。CathedralはNapalm Deathにいたリー・ドリアンによって結成されたバンドで、Black Sabbathを徹底して煮詰めたようなドロドロとしたサウンドを構築していく。リー・ドリアンはNapalm Deathという速さを追求したバンドから、今度は逆に遅さと重さを追求する方向へと向かったのである。

ストーナーロックは「マリファナ中毒者のロック」を意味したもので、ドゥームメタルと同様にBlack Sabbathからの影響を受けてはいるものの、それ以上に60年代ヘヴィサイケを代表するBlue Cheerや70年代にスペーシーなサウンドを指向したHawkwind[ホークウィンド]からの影響が強く、強い酩酊感とドライブ感をともなったサウンドを特徴としている。その直接的な開祖はKyuss[カイアス]とされ、他にもMonster Magnet[モンスター・マグネット]やFu Manchu[フー・マンチュ]などがその代表的なバンドとして数えられる。また、Kyussの解散後に結成されたQueens of the Stone Age[クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ]はストーナー的なサウンドを継承しながら、商業的な成功を収めている。

スラッジメタルは名前こそメタルではあるものの、むしろハードコアパンクの流れから生まれたジャンルである。グランジと同様にBlack Flagが提示した「遅くてヘヴィなハードコア」を直接的なルーツとしており、ここにノイジーなポストパンクであったSwans[スワンズ]やFlipper[フリッパー]の影響を重ね合わせたサウンドとなっている。スラッジメタルを語るうえで欠かせない存在といえば、まずはMelvinsであろう。グランジの黎明期を支えたバンドでもあるMelvinsは、他のグランジバンドとは異なり、その後も大衆的な要素を取り入れていこうとはせず、ひたすらアンダーグラウンド的なヘヴィネスを追求し、このスラッジメタルの直接的なルーツとなっていく。その後はEyehategod[アイヘイトゴッド]などもこのジャンルを代表する存在として浮上していく。

これらのジャンルからはさらなる極端化を目指し、徹底的に遅く弛緩したサウンドを追求するバンドも生まれてきた。その代表格がEarth[アース]であり、彼らの1993年の作品である"Earth 2 -special low frequency version-"はそうした極端化の究極の形として語られることも多い。このあたりになると、もはや相当なマニアでもない限りは受け入れることが難しくなってくるであろう。

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こうして音楽の歴史に残る最大のムーブメントの一つである
オルタナティブロックによるシーンの変革が巻き起こりました!

そしてそれに沿う形でメタルの世界も大きな変化が起こりました!

これによって90年代の音楽シーンは80年代とは一気に変わります!

次回はこの「オルタナティブムーブメント後のシーン」を見ていきます!(゚x/)

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テーマ : 洋楽ロック | ジャンル : 音楽

コメント

 
おはようございます。90年代に入り、オルタナティブロックは更に進んだのですね。自分の場合、音楽は感覚で聞く方であり、蘊蓄はないのですが、こうしてお聞きすると深いものがあるのですね。大変勉強になります。
◎まとめ◎
お陰様で本日も知見にあふれた記事に触れさせて頂きました。かーとさん、今日も充実したライフをお過ごしください。ありがとうございます。
横町さん、こんばんは。

今回もいろいろと記事を読んでくださり、本当にありがとうございます。

>90年代に入り、オルタナティブロックは更に進んだのですね。

80年代にオルタナティブロックが生まれ、
それが90年代に入って大ブレイクしたという感じですね。

そしてそれにともなって、
さらにオルタナティブの流れを汲むサウンドが多様化し、
それらも同様に大きなヒットを獲得していく時代になりました。

それでは、コメントありがとうございました。

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